【創作】僕の世界体験記

「今、恋人はいる?」

「家族は元気?」

世界を旅してきた僕に、彼女は普通のことしか聞いてこない。

 

僕は世界を体感して、その他大勢にはなれないんだと実感した。日本に閉じ籠ってなんていられない。そうさ僕は普通じゃないんだ。

 

資金が果てて、一旦帰国することになった。僕に会いたい人は沢山いるだろう。僕が見てきた世界を知りたい人が大勢いるのだろう。きっと彼女もそうだ。時間が合ったら会おうよ、なんてセンテンスを送ってきたのだから。僕は彼女にどんな話をしてやろうかとこれまで見てきたものや体感したことを数えきれないほど思い返した。

 

ところがどっこい、彼女は普通のことしか聞いてこない。僕が世界で見てきたことになんか触れもしない。2時間。世間話で終わってしまった。拍子抜けだよ。

 

僕はたまらず聞いた。

君は僕が見てきた世界を知りたかったんじゃないのかい?

彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。

「私は同級生だったあなたに会いたかっただけ。あなたの見た世界とやらはSNSでおなかいっぱいよ。楽しそうでなにより。それに、本当にアバンギャルドな人には普通のこと聞くのがいちばん面白いのよ。でも、また会う機会があったなら、あなたには普通じゃないこと聞いた方が楽しそうね。」

今日はありがと、と言って人がごった返す東京駅に彼女は消えた。